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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)208号 決定 1985年8月15日

抗告人

東都開発観光株式会社

右代表者

菅邦欣

右代理人

高城俊郎

相手方

杉山政喜

相手方

周玉清

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。相手方杉山政喜の申立を却下する。」との裁判を求める、というのであり、その理由は別紙のとおりである。

二そこで検討するに、記録によれば、本件会員権は、いわゆる預託金会員組織ゴルフ会員権と称せられるもので、抗告人所有のゴルフ場施設の優先的利用権、会費納入等の義務、預託金返還請求権という債権債務から成り立つ包括的な債権契約上の地位であるが、かかる地位は、財産的価値を有し、執行債権の引当てとなる適格をもつものというべきであるから、民事執行法一六七条一項にいう「その他の財産権」に当たり、同法一四五条の差押命令の対象となり得ることはいうまでもないし、また、これが譲渡性を有することはその財産権としての性質上当然のことであるから、これにつき同法一六一条一項の譲渡命令を発し得ることも論をまたないというべきである。

抗告人が主張するように、本件会員権に係るお茶ノ水カントリー倶楽部の会員権の譲渡については、同倶楽部の会則により名義書換料の支払や理事会の承認等を経なければならないこととされているが、そのような条件が付されているからといつて、更には、現在右会員権の名義書換えが停止されているとしても、それゆえに右会員権をもつて譲渡性のない一身専属権ということはできないし、また、譲渡命令による譲渡は、私法上の特定承継の一種にすぎないから、当事者間において有効に譲渡し得る財産権である以上はこれをその対象とすることができると解されるのであって、右のような手続等が必要とされ、かつ名義書換えが停止中であることは、譲渡命令を発する妨げとなるものではない。本件譲渡命令によつて本件会員権は譲渡の当事者である相手方両名の間においては有効に移転するのであり、ただ、名義書換えが再開されて右の手続等が履践されない限り、抗告人に対する関係では右移転の効果が生じないだけのことである。

抗告人の主張は、いずれも独自の見解に立つて原決定を非難するものにすぎず、採用することができない。

三よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官高野耕一 裁判官南 新吾 裁判官根本 眞)

抗告の理由

一、原決定は被抗告人(債務者)の有する別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権につき、被抗告人(債権者)に譲渡する旨の譲渡命令を発した。

二、ゴルフ会員権とは、当該ゴルフ場における会員としての地位である。

会員としての地位の内容としては、会員は当該ゴルフ場において、ゴルフ場および附属施設を利用する権利を有する一方、その経営会社に対して年会費、その他の諸費用を支払う義務、その他、会則等を遵守する義務を負う、契約上の地位である。尚、会員はその経営会社に対して保証金を預託したときは、その保証金の返還請求権を有する。

ゴルフ会員権の契約上の地位は、その経営会社が同意したときに限り譲渡を認められるが、その譲渡に際しては、その譲受人がそのゴルフ場の会員としてふさわしいか否かについて自由裁量による承認をすることができ、かつ所定の名義書替手数料(実質的には譲受人の入会金)の支払を条件とするものである。

三、本件ゴルフ会員権も、前項に記載した通常のゴルフ会員権と同様の契約上の地位たるゴルフ会員権である(乙第一号証会則)。

四、従つて、本件ゴルフ会員権は権利と義務と一体となつた契約上の地位であり、譲渡性を有しないものである。

民事執行法第一六一条に定める譲渡命令は、「債権」について定めるものであり、この債権は、譲渡性を有することを前提としているものであり、本件ゴルフ会員権は単なる「債権」ではなく、前述のとおり権利と義務とが一体となつた契約上の地位であり、「譲渡命令」によつて譲渡しうる性質を有しない。

五、尚、抗告人(第三債務者)の経営する本件ゴルフ場すなわち、「御茶の水カントリー倶楽部」においては、現在いわゆる名義書替を一般的に停止しており、抗告人において、これ(譲渡)を承認することはない。

誰を当該ゴルフ場の会員とするかは、当該ゴルフ場経営会社の判断によるべきものであるから、会員権は一面において一身専属権としての性質を有するものであり、この点からも本件譲渡命令は取消されるべきものである。

六、また、前述のとおりゴルフ会員権の譲渡にあたつては、いわゆる名義書替料をそのゴルフ場経営会社に支払うことを条件とするものである。本件ゴルフ場においては、名義書替を仮りに承認する場合には金三〇万円の名義書替料が譲渡しようとする会員から抗告人に支払われることを要する。

仮りに、本件譲渡命令が有効であるためには、この名義書替料が支払われることが条件であり、この点からも原決定は破棄を免れないものである。

七、以上のとおり、原決定は「債権」とはいえない「契約上の地位」を譲渡の対象とするものであり、仮りに然らずとするも譲渡性のない一身専属権を譲渡の対象とするものであり、また名義書替手数料の支払を抗告人にさせないで譲渡を命ずるものであり、いずれの点からも違法であり破棄されるべきものである。

(尚、附言するならば、かような譲渡命令が許されるならば、名義書替を承認していないゴルフ場(これは、新たに会員を募集する場合、その他コースの増設等の場合には名義書替を停止する必要があるからである)について、名義書替を希望する者は、譲渡をしようとする第三者から金銭を借用し、その第三者をしてかような譲渡命令の申立をし、同命令を受ければ、名義書替料の支払をしないで譲渡が可能になるという重大な問題を含むものである)。

八、原決定において抗告人(第三債務者)を東都観光開発株式会社と表示しているがこれは東都開発観光株式会社の誤記である。

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